受賞者
分子フォトサイエンス研究センター 小堀康博 教授
受賞日
令和元年9月11日
受賞名
第33回光化学協会賞
業績名
電子スピン分極イメージング法の開発による光エネルギー変換機構の解明

概要

長年にわたって高い水準の研究業績を挙げることにより光化学に大きな貢献を果たした功績が認められ、小堀教授が光化学協会{会員数1172名(2019年)}より第33回光化学協会賞を授与されました。

小堀教授は生体や太陽電池の様々な系で生成する励起子?電荷による光エネルギー変換機構の詳細を明らかにしました。次世代エネルギー源の分子設計に極めて重要な成果を長年にわたり挙げてきたことが高く評価されました。

1999年東北大助手として時間分解電子スピン共鳴分光法を用いて光電荷分離過程で生成する中間体の対(光電荷分離状態)の磁性発現の仕組みを明らかにしました。この磁性の計測から電荷分離状態の軌道の重なりの性質(電子的相互作用)等を調べることが可能になりました。

2002年米国シカゴ大に日本学術振興会海外特別研究員として移り、電荷分離状態の電子スピンによる量子コヒーレンス効果の研究に着手しました。これにより2006年までに様々な反応系にて電子的相互作用の定量化を行い、初期電荷再結合によるエネルギー損失の抑制機構を独自に示しました。

2006年静岡大学理学部准教授着任後は、分子への光照射で生成する三重項状態の電子スピン量子コヒーレンス効果を量子論により定式化し、DNAやタンパク質複合体、連結分子系の様々な反応系において、光電荷分離状態の立体構造と電子的相互作用の同時解析に初めて成功しました。さらに2009年よりJSTさきがけ「太陽光と光電変換機能」研究員(兼任)として、有機薄膜太陽電池の光電流生成初期過程を調べる研究に着手し、光活性層薄膜に生成する界面電荷分離状態の立体構造と電子的相互作用の同時解析から電荷生成機構の詳細を明らかにしました。

2013年より本学理学研究科化学専攻教授に着任し、光合成タンパク質や太陽電池を対象とする励起子?光電荷分離構造解析と電子スピン分極イメージング法の開発を進めました。2017年に中間体分子の距離および位置と分子配向を高い空間分解能にて画像化し、さらに電子軌道の重なりや運動性を特徴付けたことにより、高等植物が光合成による水分解を可能にした初期電荷分離過程における分子論的進化の仕組みを示しました。さらに近年では、一重項励起子分裂による多重励起子生成機構の解明でも顕著な研究業績を次々と挙げています。これらの成果は超高効率な人工光合成や有機太陽電池などの光エネルギー変換デバイスの開発に大きな契機をもたらすものです。

関連リンク