岡山大学異分野基礎科学研究所の長尾遼特任講師、加藤公児特任准教授、秋田総理准教授、沈建仁教授、筑波大学生存タ?イナミクス研究センターの宮崎直幸助教らの共同研究ク?ルーフ?は、理化学研究所堂前直ユニットリータ?ー、京都大学伊福健太郎准教授、兵庫県立大学菓子野康浩准教授、基礎生物学研究所内山郁夫准教授、神戸大学秋本誠志准教授との共同研究により、クライオ電子顕微鏡を用いて、海産性珪藻の光化学系I-集光性色素タンハ?ク質複合体の立体構造解析に成功しました。この結果から、光合成生物か?多様な光環境に適応するために、集光性色素タンハ?ク質の数や結合様式を調整することを明らかにしました。

本研究成果は、光合成生物か?なせ?多様な色を持ち、生育の場所を拡大してきたのか?という問いに対する知見を与えるものて?す。色の多様性は光合成生物の生存戦略の一環て?す。生育の場所を拡大て?きたのは、珪藻か?褐色を呈することて?、水中を透過する限られた光エネルキ?ーを効率よく利用しているからて?す。また、珪藻の光化学系Iタンハ?ク質に結合する集光性色素タンハ?ク質か?比較的深い海中に生息する紅藻や陸上に生息する緑色植物と大きく異なることか?わかりました。この成果は、光合成生物の集光性色素タンハ?ク質の多様性を紐解く知見となり、なせ?光合成生物は見た目の色か?異なるのか?という進化的な知見を提供するものて?す。

本研究成果は、5月18日に英国の科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。

ポイント

  • 光合成生物の特徴の一つである見た目の色の違いが存在する理由を解き明かすため、褐色を呈する海洋珪藻由来の光化学系I-集光性色素タンパク質の立体構造をクライオ電子顕微鏡(注1)により決定しました。
  • 珪藻の光化学系Iの周りに16個の集光性色素タンパク質(注2)が結合していることが判明しました。紅藻の光化学系I-集光性色素タンパク質構造と比較すると、珪藻では集光性タンパク質の増加および独特な結合様式であることがわかりました。
  • 光合成生物の進化において、集光性色素タンパク質の数の調節が環境応答や生存戦略として重要である可能性が示唆されました。

発表内容

光合成とは、太陽の光エネルキ?ーを利用して水?二酸化炭素から炭水化物や酸素を合成する反応て?す。光化学系I?光化学系IIと呼は?れる膜タンハ?ク質複合体か?光合成反応の中心て?あり、光エネルキ?ーを有用な化学エネルキ?ーへと変換する役割を担います。光合成生物種は共通する光化学系タンハ?ク質を有しています。一方て?、光化学系タンハ?ク質に結合し、光エネルキ?ーを供給する集光性色素タンハ?ク質は、極めて多様性に富んて?います。陸上に生息する植物や海中に生息する藻類なと?、光合成生物は多様な環境に適応しており、生存戦略の一環として、集光性色素タンハ?ク質に結合した色素の種類やタンハ?ク質の自体の組成を最適化していった結果て?す。つまり、光合成生物か?多様な色を持つ理由は、集光性色素タンハ?ク質にあるといえます。

珪藻や紅藻なと?の水域に存在する光合成生物は、陸上植物と異なる進化を遂け?ており、それそ?れの生存環境に応し?て異なる集光性色素タンハ?ク質を持ちます。水中を透過する太陽光エネルキ?ーは、青色から緑色の光て?あるため、陸上植物よりも限られた光エネルキ?ー資源を確保するために多様性か?生まれたと考えられています。淡水域、汽水域、海水域に広く分布する珪藻は、重要な一次生産生物て?す。紅藻を細胞内へ取り込んて?進化した二次共生藻と考えられており、褐色を呈しています。その原因は集光性色素タンハ?ク質て?あるフコキサンチン-クロロフィルa/c結合タンハ?ク質 (FCP) にあります。FCPは太陽光エネルキ?ーの中の青色から緑色の光を吸収することに優れており、これは植物か?持つ集光性色素タンハ?ク質の吸収領域て?ある赤色と青紫色と大きく異なります。

光化学系Iの周りに結合する集光性色素タンハ?ク質は、その数や配置か?紅藻?緑藻?陸上植物の間て?異なります。しかし、珪藻の光化学系IにFCPか?と?のように結合し、光エネルキ?ーの供給に寄与しているのか、その詳細は不明て?した。珪藻のFCPと光化学系Iの分子集合およひ?光エネルキ?ー供給機構の仕組みを明らかにすることは珪藻の光捕集戦略の解明た?けて?なく、なせ?光合成生物か?色の多様性を持つようになったのか?という進化的な疑問を解明するうえて?もとても重要て?す。

図. 珪藻の光化学系 I-FCP 複合体の全体構造 (A) と色素分子の配置 (B)

(A) 黄色は光化学系 I、桃色はFCP。
(B) 珪藻の光化学系 I-FCP 複合体中の色素分子の配置。緑色はクロロフィル、黄色?橙色はカロテノイド

長尾特任講師、加藤特任准教授、秋田准教授、沈教授、宮崎助教らの共同研究ク?ルーフ?は、理化学研究所堂前直ユニットリータ?ー (質量分析を用いた集光性色素タンハ?ク質の同定?定量)、京都大学伊福健太郎准教授 (集光性色素タンハ?ク質の遺伝子解析、分子系統解析)、兵庫県立大学菓子野康浩准教授 (珪藻ケ?ノムテ?ータの提供)、基礎生物学研究所内山郁夫准教授 (ケ?ノム解析支援)、神戸大学秋本誠志准教授 (分光学的解析による構造の解釈)との共同研究により、珪藻から光化学系I-FCP複合体を精製し、クライオ電子顕微鏡により2.4A? (1A?は1mmの1千万分の1の長さ) の解像度を持つ立体構造を解明しました。光化学系I当たり、16個のFCPか?光化学系Iを取り囲むように結合しており、多数の色素分子か?配置していることか?わかりました (図)。これは、これまて?に報告されている光化学系I-集光性色素タンハ?ク質複合体の中て?最大のものて?す。珪藻は紅藻由来の葉緑体をもつと言われています。紅藻の光化学系Iには5個の集光性色素タンハ?ク質か?結合するため、珪藻は進化の過程て?更に11個もの集光性色素タンハ?ク質を追加て?光化学系Iに結合させることか?わかりました。また、陸上植物や緑藻の集光性色素タンハ?ク質の光化学系Iに対する結合様式とも異なることもわかりました。光合成生物は進化の過程において、色素成分のみならす?、タンハ?ク質の結合や配置も変化させてきたことか?示されました。

太陽光を利用したクリーンエネルキ?ーの活用は、エネルキ?ー問題や環境問題の解決につなか?る、非常に重要な事柄て?す。光化学系I-FCP複合体は、植物とは異なる太陽光エネルキ?ーの成分を効率よく吸収?利用しています。今回、我々か?解明した構造は、太陽光エネルキ?ーの成分を利用した電気エネルキ?ーへの変換に必要な分子配置の設計に指針を提供することか?期待されます。将来的には、得られた構造やこれまて?解析された他の光合成装置の構造の知見を利用することて?、太陽光エネルキ?ーの成分の選択的利用に基つ?いたエネルキ?ー利用テ?ハ?イスの創出か?期待されます。

研究資金

本研究は、日本学術振興会?科学研究費補助金「基盤研究C」(課題番号:JP17K0744)、「新学術領域研究(研究領域提案型)」(課題番号:JP19H04726、JP17H06433、JP16H06553)、科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業個人型研究 (さきか?け) (課題番号:JPMJPR16P1)、JST先端的低炭素化技術開発(ALCA)(課題番号:JPMJAL1105)、大阪市立大学人工光合成研究センターにおける共同利用?共同研究、基礎生物学研究所共同利用研究(課題番号:19-455)の支援を受け実施しました。

用語解説

注1 : クライオ電子顕微鏡

液体窒素温度でタンパク質粒子を観察する電子顕微鏡のことです。サンプルへの電子線ダメージを軽減するために液体窒素温度での測定を行います。多数のタンパク質粒子の形状を計測して平均化することで、当該タンパク質の立体構造を解析します。2017年にはノーベル化学賞を受賞した技術です。

注2 : 集光性色素タンパク質

クロロフィルやカロテノイドなどの色素を結合した、太陽光エネルギーを集める役割を持つタンパク質です。光合成生物の種類に応じて異なる集光性色素タンパク質が存在します。本報告で明らかにした、フコキサンチン-クロロフィルa/c結合タンパク質 (FCP) は珪藻や褐藻に特有であり、その名の通りクロロフィルa、クロロフィルc、フコキサンチンを結合しています。

論文情報

タイトル

Structural basis for assembly and function of a diatom photosystem I-light harvesting supercomplex
「珪藻光化学系 I-FCP の分子集合と機能に関する構造基盤」

DOI

10.1038/s41467-020-16324-3

著者

Ryo Nagao, Koji Kato, Kentaro Ifuku, Takehiro Suzuki, Minoru Kumazawa, Ikuo Uchiyama, Yasuhiro Kashino, Naoshi Dohmae, Seiji Akimoto, Jian-Ren Shen, Naoyuki Miyazaki and Fusamichi Akita

掲載誌

Nature Communications

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研究者